峡谷への航路

こんにちは、矢筈たまです。Twitterには毎日居たんですが、ブログの方では就職活動などもあり、更新ご無沙汰しておりました。

今回、突然モチベーションが復活してこの架空世界が火星にいたる直前までの前日談のようなものを作ってみましたので、Pixivと迷ったんですが、ここに掲載したいと思います。今回は絵はないです(汗)

 

―――

 警報が鳴り響いた。ここは宇宙船の艦内、月のコロニーから火星に向かう第一移民船<2067号>の一室の中。放送がかかり、一般乗員は室内から出てはならないという案内がなされた。船のトラブルで、艦内の空調を管理するシステムが不具合を起こし、機能を停止したとのこと。このシステムは船の中の通路や連絡路と個別の室内では別系統になっていて、そのために室外に出てはならないということらしい。

「衛生局です、三越さん、大丈夫ですか。安否確認中です。」

衛生局の役員が通路から接触回線でハッチ越しに通信してきた。おそらく防護服を着て巡回しているのだろう。父親が部屋のハッチに近づき、スマートリスタ(個人用の総合通信端末)をかざして返答した。

「はい、大丈夫です。ご苦労様です。」

「ありがとうございます!失礼します。」

父親が私に話しかけてきた。

「この船は3千人ほども乗っているのに、衛生局の人は大変だなぁ、萩乃。僕も手伝えることがあれば手伝いたいよ」

「父さんは大学で毎日研究してるだけだから、衛生局の人のように走り回って仕事なんてできないんじゃない」

「そう酷いことを言うなよ」

「足手まといになるだけだよ」

「まぁ、どちらにせよ今日は船内時計だともう夜の21時だし、寝ようか」

「こんな時間に警報鳴るからびっくりしたね」

私たちは、そのままそれぞれの部屋(といっても仕切りがあるだけだが)に行き、休んだ。

 

 その深夜、空調管理がされているはずなのに、私はふと酷い寝苦しさに襲われて飛び起きた。全身に嫌な汗をかいていた。

「父さん」

 ぐっすり寝ているのか、反応が無い。いや、父さんも、私と同じように、寝苦しそうだ。それに、この部屋自体、なんだか空気がよどんでいる。そういえば、寝る前に船内の空調システムがダウンしたが、もしかしてそれが艦内全部に及んでいるのだろうか。復旧はどうなっているんだろう。私はそう思い、部屋のハッチを開けようとした。ハッチはロックがかかっているかと思ったが普通に開き、通路からは部屋の中よりもっとムッとした空気が立ち込めていた。父さんは心配だが、そのためにも、衛生局の人を探さねばならない。私は部屋から出た。

 

 さすがに三千人が乗り込める船の船内は広い。衛生局の本部があるところまでは、数分歩かねばならない。しかし、いくら歩いてもおかしいかな、深夜ということもあるが、全く人に出会わない。まだ外出禁止命令は発令したままなのだろうか。でも、それならハッチが開いて自由に出歩けているのは変だ。あきらかに様子がおかしかった。どこまで行っても船内の空気はよどんでいて息苦しい。心臓がどきどきと脈打ち、それにつられてどんどん不安になってくる。

 

 船内の最も開けた中央デッキにある、衛生局の本部にたどり着いたが、そこには誰も居なかった。まだ安全確認の作業は済んでいないのだろうか。しかし本部や、デッキにある他の施設にすら、誰も居ないというのはおかしい。それに、ここまで歩いてきたのに船内のどこも非常電源の照明しかついていなくて、よく周りも見えない。病室なら誰か居るかもしれないと思い、衛生局の施設の奥に入った。病室のハッチの上には赤いランプがついていて、施錠と表示されていた。しかし、ハッチのある壁の足元には手動で開くことができるハンドルがついているのが分かり、それを使って開いてみることにした。

 

(ドサッ)

 

「うわぁっ!」

ハッチを開くと、もたれかかっていたのか人がこちらに倒れこんできた。

「ううっ、ううううーーーーー!!!」

「ッ!?」

暗いが、声からして女の子だ。察するに、ここに何時間も閉じ込められていたのではないだろうか。

「あっ、ありがとうであります!ずっと、ここ開かなかったのであります!」

「そ、そうなんだね・・・ええっと、私は萩乃。どういう状況なのか分からないんだけど、貴方が最初に見た人で、他に誰も人が居なくて・・・」

「私のことは水過乃と呼ばれたい!私は命令で室内待機して居たのでありますが、父親は私の体調不良を察知し、一緒にこの衛生局へ向かっていたとき、格納庫の方で爆発があったようで、人々が艦内全体で大混乱に陥り、そのとき父は人ごみに紛れてはぐれてしまったのであります。」

「なるほど・・・それにしても、何故誰も居ないのだろう。」

「私はその後体調を悪くしこの病室でしばらく倒れていた間の出来事なので分からないのであります。むしろ萩乃殿は丈夫そうなので、何か知らないのでありますか?」

「それが、私も命令で部屋に待機していただけなので分からないの・・・。私の父がまだ部屋で横になっていて、体調が悪そうだからここに来くれば衛生局の人を呼べると思って」

「そうでありますか・・・」

「私は大丈夫だから、その格納庫の方まで行けばなにか分かるかもしれないし、行ってみよう」

「そうでありますね」

 

 私は水過乃と一緒に歩きはじめた。衛生局から格納庫までは、そう離れていなかった。というのは、格納庫は衛生局のある中央デッキの下の階層の同じ場所だからだ。格納庫への通路に踏み入れてみると、そこは想像以上に混乱の形跡が残っていた。通路の壁が壊れたりし、物が散乱しているのだ。

「なに、これ・・・」

「これは酷いでありますな」

そう喋ると、人が歩いているような物音が聞こえた。

「だ、誰?」

「誰か居るのでありますか!」

「こ、こっちです・・・!」

小さな声が聞こえた。

「今行くでありますよ!」

 

 格納庫に散乱した物の影に、座り込んでいる私たちと同じくらいの女の子が居た。

「大丈夫でありますか。私は水過乃と言う者であります。」

水過乃は女の子に手を差し伸べる。

「私はディーナ・・・。一体、これは何が・・・」

「私たちもそれを確かめにここに来たの。私は萩乃だよ」

「萩乃さん、よろしくね。」

「しかし、ディーナ殿もなにも知らないとなると、八方ふさがりでありますな。」

「でも・・・」

ディーナが暗がりの向こうを指さし、その先には大人が何人も倒れているではないか。

「あれは!?」

「人が倒れてる・・・」

水過乃が駆け寄り、呼びかけてみるが、反応はない。おそらく亡くなっているのだろう。

「なにかに巻き込まれたのかな・・・。」

「この人たち、この先に向かおうとしてそのまま事故や事件に巻き込まれたのかもしれない。みんな同じ方向を向いて倒れてるから」

とディーナが言う。

「たしかに、この先にも衛生局の施設があったはず」

 

 そう話していると、また足音が聞こえてきた。こんどは一人や二人ではない、もっとたくさんの人だ。

「誰か居るのか!」

どうやら大人の男性の声だ。

「まずい、ここはかなり濃度が高いぞ!?」

「公安です!現在、艦内全域緊急事態中につき乗組員は全員避難誘導中です!ここは危険です、保護しますのでついてきてください!」

「しかし、この濃度でなぜこの子らは生きているんです!?」

「今は保護が先だ!」

「の、濃度とは何のことでありますか!」

 

 私たちは訳もわからず、とりあえずこの公安の人たち3人についていき、公安の一時控え室までやってきた。部屋に入ると、なにやら消毒スプレーのようなものを三人まとめて勢いよく吹きかけられた。

「現在、艦内・・・特に爆発のあった格納庫を中心に、おそらく生物兵器によるテロがあったと推定され、艦内全域に緊急事態宣言が発令されていて、衛生局だけでは対応できないので公安が出動して避難誘導と保護にあたっているのです。それで、大方避難は誘導できていたのですが、格納庫をとりあえず封鎖するために来ていました。」

なるほど・・・。

「それで、私たちを見つけてくださったのでありますね」

「そうです。しかし、あそこは特に濃度が・・・というより、格納庫こそが生物兵器の爆心地であったと推定され、格納庫に隣接している艦内の空調管理システムがさらなるダメージを受けたのですが、なぜあなた方がいまのところ無事のように見えるのかを今から検査させていただきます。よろしいですね。」

「なんともないのでありますが、そういうことなら従うであります。」

 

「もしやと思いましたが、やはりですか・・・」

「何がでありますか?」

「いえ、あなた方三人とも、偶然にもご無事でいらっしゃいます。」

「よかったですな、お二人とも!」

「ええ、よかったです、水過乃さん。」

私は黙ってうなずいた。ただ、気になるのは父さんだ。一人で出てきてしまったが、避難はできているのだろうか。

「公安さん、私たち以外の避難者はどこに?」

「衛生局の病室に隔離してありますが、突然のことで、しかし計画的なものだったので艦内の空調システムに生物兵器の汚染が広がり、艦内はほぼ全域絶望的な状況です。まずテロ発生と同時にこのすぐ近くに居なければ無事では済まないでしょう。」

 

その足で、3人とも避難所に来た。が、当然一人で逃げてきた私の父さんはここには居なかった。

「萩乃殿・・・」

「水過乃のお父さんは居るの?」

「いえ・・・私も・・・。ディーナ」

「私は、ちょっと事情があってこの船には一人で乗り込んだの。」

「そうでありますか」

絶望的であることを悟り、私はまだ見ぬテロリストを恨んで、悔しさで涙があふれた。

「・・・一人で出てきたりしなければよかった」

「萩乃殿、お気持ちを察するであります。」

ディーナは、ただ黙っていた。

 

 そう喋っていると、公安の人たちが寄ってきた。

「ディーナさん、少しお話があるので、こちらへご同行願えますか。」

「はい」

ディーナはなんだろうという表情で、公安の人に連れられていく。どうしたのだろう、私は気になった。

「あの、私もいいですか。」

「で、では私も同行させていただきたいであります!」

公安の人たちが話しはじめた。

「いいでしょう、お二人方にも来ていただきましょう。」

 

 安全が確保してある、公安の施設までやってきた。

「単刀直入に申し上げます。萩乃さんと水過乃さん、あなた方はこの今回のテロに使われたコーダ壊死病病原菌ウイルスに対抗しうる血清を持っていました。これで、今生き残っている多くの人を助けることができるでしょう。これがなければ、この船の乗組員はほぼ全員絶望的でした。」

「えっ・・・」

「これは事実です。そしてそうでなければあなた方はあの状況ではすでに死んでいたでしょう。」

「なら、ディーナは・・・」

「ディーナさんは、人間ではありませんでした。」

「ッ!」

「そ、そんなはずは・・・」

「わ、わたしは人間ですよ!?」

「この映像を見てください」

空中に投影されたモニターには、ディーナと思しき女の子が、格納庫に一人で入ってくるのが見える。そして、リュックからなにか大きな装置を取り出し、床に置いたと思うと、何か操作して、そのままそこに倒れた。それは、今回のテロが起こる直前の格納庫の監視カメラの映像なのだそうだ。

「こ、これは・・・」

「これは、私・・・?」

「はい、映像解析の結果、あなたであることはほぼ確実です。」

「う、うそ、私こんなことしてな・・・うっ、ぐうッ・・・!」

「ディーナ!?」

ディーナが突然苦しがりはじめ、うずくまってしまった。公安の人が何かを察知し、萩乃と水過乃を抱えて退避行動をとった。

「そこに伏せていなさい!」

「ひィッ!」

水過乃が悲鳴をあげる。

ディーナが喋りだした。

「この船は、沈めないとならない。鍵であるイデア・デザインは火星に届けるわけにはいかない!」

「貴様!なぜそれを知っている!」

公安の人が叫んだ。

「最初の火星コロニーが完成しようという今、イデア・デザイン・・・火星を安定的に発展させるための計画経済の演算システムであり、国の設計図がこの船に積載されているのは、当然推定されること。われらの情報部も、これを掴んでいた。この船を沈めて、イデア・デザインを回収すれば、火星は我らのもの・・・。だが、まさか兵器の血清がこの船に居たとはな。不覚であった。」

とディーナが本人の口調とは思えない喋り方で言う。そして、ディーナの方向からこちらに発砲される音がけたたましく響いた。ディーナの方向を見ると、さっきまでのおとなしそうなディーナとは全く違う気配を感じる。しかし、その動きはどこか不自然だった。公安の人も応戦して発砲しているが、ディーナはそれを的確にかわしている。だが、ワンテンポ遅れた動きのように見える。まるで、どこかから遠隔操作されているような動きだ。ディーナはハッチに近づき、この部屋から逃げようとしたが、公安の人が先にハッチに近づき、封鎖しようとする。しかし、ハッチに近づいた公安の人は、ディーナが撃った弾丸を頭に直撃し、そのまま吹き飛んだ。私は、その公安の人が考えたことを察し、ハッチのハンドルに近づいた。

「萩乃さん、いけません!避けて!」

私はハッチのハンドルを引き、この部屋を封鎖した。それに気づいたディーナが、私に発砲した。私の左腕が吹き飛び、そしてディーナが体当たりをしてきた。左脚にも激痛がはしったところで、私は気を失ってしまった。水過乃が叫んでいたような感じがする。

 

どれくらい時間がたったのだろう、私は気がついた。目を開けると、まず目に飛び込んできたのは水過乃だった。景色からして、おそらくまだ宇宙船の船内だ。

 

「萩乃殿!」

「・・・水過乃?」

「よかったであります!萩乃殿!信じていたであります!」

「わ、私生きてたんだ・・・」

「あのとき、ハッチを萩乃殿が閉めてくれたおかげで、ディーナを遠隔操作していた通信が失われ、ディーナは正気を取り戻したのであります。ただ、萩乃殿の腕と脚が・・・」

「たしかに、左腕と左脚の感覚が無い・・・」

動かそうとすると、モーターの駆動音のようなものが聞こえた。

「公安の人が、善意でその義肢を備品から取り付けてくれたのであります。」

「そう、なんだね・・・それで、ディーナは」

「今は、公安の人によって隔離されているのであります。火星についたら、ストローニャの技術者にハックしてもらって、遠隔操作のプログラムを破壊できるのではないかと計画中なのであります。生き残ったのは、避難に成功した数人と、私たちと、公安の人数人だけらしいであります。」

「・・・。」

「私たちを命をとして守ってくださった方々と、これからの火星のためにも、イデア・デザインを無事送りとどけ、このテロの事件を火星で広めていくであります!萩乃殿も、私に付いてきて欲しいであります。」

水過乃の目には、決意の輝きがあるように私には見えた。そして、こう答えさせるだけの説得力があった。

 

「もちろん!」

 

―――

 

これにて月から火星までの航行の前日談は完結です。

それでは、また更新が遅くなるかもしれませんが、また!

 

До аста'!